ーー まずはトヨタ博物館ついて教えてください。

トヨタ博物館は、1989年に開館し、今年25周年を迎えました。この博物館の設立の理念の中に「人とクルマの豊かな未来のために博物館作りました」とあります。ここはただ古いものを保存して残すための博物館という事ではなく、皆様と共にクルマの歴史を学び、人とクルマの未来を考えるための博物館なのです。

ーー こちらにはどのようなクルマが収蔵されているのですか?

この博物館の特徴は、大きく2つあります。ひとつはトヨタだけでなくて世界中の名車や既に歴史から名前が消えてしまったメーカーも含め、ハイライトになるクルマを収蔵しています。企業の博物館というよりはクルマ全体の歴史を扱っているということが特徴になります。もう一つの特徴は、我々は動体保存と言っているのですが、展示されているクルマは基本的にどれも走らせることができる状態で保存されているということです。動物に例えれば、ちゃんと生きている状態ということです。ですからそのクルマが当時こんな音で、こんな雰囲気で走っていたんだなということを今でも感じていただけるのが特徴です。展示車両は本館・新館を足して140台あまりですが、実際の収蔵車はその3倍以上の500台くらいになります。常設展示できていない車両は企画展などを通じてご紹介しています。

ーー トヨタ自動車のチーフデザイナーとしてハリアー(初代)、アルテッツァ、イスト(初代)などの開発を牽引し、その後グローバルデザイン統括部主査として、レクサスを含むトヨタ自動車全体のデザイン戦略にも携わってきた元・作り手として展示車のどんなところを見て欲しいですか?

クルマを作っている時は、何が本当に正しい答えなのかわからないし、出来上がった時にもわからない。実際に市場に出てから何年かして、お客様に結構良い評価をしていただいたなってわかるものなのです。そういうことを私は30年ほどデザインの現場で経験しているので、作り手の目で展示車を見ると、どれだけ不安な中で仕事をしていたのかなぁと感じてしまいます。歴史の見方として、絶対に今の私たちの目線で見ちゃダメだと思っています。私たちは結果が出ちゃった後の世界を知っている訳ですからね。当時はどんな想いで作っていたんだろうとか、あるいは自分だったらどうしただろうとか、その当時の人と同じ気持ちでたどると、1台1台がすごく面白く見えてくるし、いろいろなことを感じられるのではないかと思います。

ーー これから布垣さんが館長として伝えていきたいこととは?

既に25年間、結果として550万人を超える方が観に来られているということからしても、この博物館自体もある程度の歴史を持っているので、ちゃんと守らなくてはいけないこともあると思うんです。ですから、私はむやみに変えることは考えていません。ただこの博物館の目的である『将来のために、未来のために博物館をつくった』という創立時の理念を思うと、25年前と今とでは時代が変わってきていますし、当時の人とはクルマを見る目も随分変わってきていると思うので、私は今こそもっと積極的にクルマの作られた当時の背景や人の想いを伝える努力をしないといけないと思っています。その中で自分が何ができるだろうと考えると、クルマの開発をやってきた目線で見たクルマの面白さだとか、よくやったなぁみたいな部分をかみ砕いて伝えられないかとか、展示とセットでより面白さや深みを感じていただけるようにできないかと考えています。まずはそんな思いを込め『モノ語る博物館へ』というスローガンを掲げました。『物語』とかけて、クルマそのものに語ってもらい、クルマの物語を我々も語れるようにしていきたいと思っています。

ーー 最後に、未来のトヨタ博物館をどのようにしていきたいですか?

ここの博物館は、初めはガソリン車の歴史だって言ってたんです。ですから、1886年のベンツの第一号車を起源としてそこから歴史が始まったという捉え方をしているのですが、最近私がそのコーナーを説明する時には、当時ガソリン車が正解だなんて誰もわからなかったんだということを伝えています。たまたまガソリン車が生き残ってこの100年間を過ごしてくる事ができたのではないでしょうか。環境問題やエネルギー問題に端を発して、これからさらに先は何が正解かわからなくなってきていると思うんです。正解がわからない時代ほど、もう一回歴史を振り返るとものすごく示唆に富んでいることがいっぱいあるし、ここで皆さんと一緒に正解を考えてみませんかっていう見方だってあると思うんです。そういったことを織り込んで新しい展示ができるといいなと思っています。もちろん時代を超えたクルマの楽しさも伝えていきたい。それが今後のトヨタ博物館の課題というか、私の夢です。

text=KURUMAG.
photo=Shigeyuki Ishikawa, KURUMAG.

※KURUMAG 3号(2014年7月16日発行)に掲載した記事を再編集したものです